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2012.04.26 Thu

毎年桜の時期がくるたびに写真を撮りたくなる場所がある。カメラを構えながら、ああそういえば去年もここでおんなじような写真を撮ったなあ、と思い出して無理やりアングルを変えてみたりはするものの、あがってきた写真は去年のものと大差はなく、それでもどうしても毎年撮ってしまう景色。
それが自宅から15分ほどぶらぶらと歩いた場所にあるさくらアパート(仮称)と、アパートの庭に生えている一本の大きなソメイヨシノだ。

さくらアパート(仮称)は、建物じたい築15年から20年くらいの横縞模様の白いスレート壁をはりめぐらせた二階建てで、世帯数も4つしかないこじんまりとした集合住宅だ。アパートにはネコの額ほどの庭があって、そこに植えられているソメイヨシノの樹はもしかするとアパートよりも年上で、幹もがっしりとして、のびのびと枝を広げて力をみなぎらせている。だから桜が葉を繁らせる季節にはアパートの庭はぜんたいが木陰だし、おそらく定期的に剪定されてはいるだろうけど、二階のベランダには鼻の先まで桜の枝が迫っていて、二階の住人の方々は窓を開けるたびに桜の枝先が目に入りそうな危険な思いをしているのではなかろうか、と思うと少々羨ましかったりするのだ。
そしてさくらアパート(仮称)は裏道から大通りへ抜けるための狭くて古びた階段に面していて、桜の樹はアパートの敷地内から悠然とはみだして階段の上にも盛大に枝を伸ばし、花の季節を迎えれば往来する人たちの目をも楽しませてくれるのだ。古い階段の脇にはニクいことにこれまたしみだらけの蛍光管の街灯が一本立っていて、アパートからはみ出して咲く満開の桜と、錆びた手すりに沿って下っていく階段と、その脇にひょろりと立つ街灯、という絶妙のコラボレーションを見逃すわけにはいかないのだった。



今日わたしは3週間ぶりにその場所へ散歩に出かけた。もうずいぶん若葉が繁っているだろうなと思って目を遣ると、その場所にはぽっかりと空が広がっていた。アパートは跡形もなく取り壊され、ソメイヨシノの大きな樹はどこに生えていたのかも確かめられないほど、すっかり更地と化していた。階段の脇に立つ街灯が、こころもとなさそうに取り残されていた。

これが今年の花の時期にわたしがその場所で撮った写真だ。
今年もまた撮っちゃった、と思いながらシャッターを切ったからどうということはない1枚だけど、これがあの場所であの景色を写した最後の1枚となった。



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